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土木研究所、ひび割れ検知する塗料開発

社会の諸問題を解決する基礎研究を塗料・塗装やコーティング材料にも応用していきたい。建物の耐候性の向上や社会インフラの老朽化問題は、イノベーションが待ち焦がれる分野でもある。今回は、塗料に応用の可能性が示されている土木研究所の最新の研究内容を紹介する。

構造物の不良部分を可視化 素濃度に応じて消光する色素の特徴を利用

社会インフラの老朽化問題において、構造物の点検の簡易化、効率化はイノベーションが待ち焦がれている分野だ。土木研究所・先端材料資源研究センターでは、新材料からのアプローチで研究を進めている。

ブラックライトのような光を照射する簡易的なデバイスを用いるだけで、構造物の「ひび割れを検知する塗料」を開発した。構造物の不良部分を可視化できれば、熟練した技術に頼らず、効率的な点検につながると期待される。現在は2011年からの基礎研究を終え、実用化に向けた段階に入っている。塗装による新検査システムの可能性が広がる同研究内容と現在の課題をまとめた。

なお、同研究は土木研究所・先端材料資源研究センター(土木研)主任研究員・百武壮氏、上席研究員・西崎到氏、東京工業大学物質理工学院准教授・道信剛志氏の共同研究によるものである。

劣化検知のメカニズム

土木研が開発した塗料をサンプル板に塗装し、ブラックライトのような照射機器で照らすと、劣化部分のみ発光しない。これは、劣化部分から侵入した酸素濃度に応じて消光する色素の特徴を利用したものである。

センサー機能を有する材料の実験(土木研提供)


このような酸素濃度を示すセンサーを〝光学酸素センサー〟と呼ぶ(=図1)。そもそも、ブラックライトを照射することで光る塗料やインクは、舞台装置、釣り具の浮きや偽造防止のパスポート、紙幣等に使用されている。このような塗料にはブラックライトに反応する色素が添加され、この色素の種類の中には、周りの酸素濃度に応じて消光する性質を持つものがある。

図1 光学酸素センサー(土木研提供)


土木構造物の劣化診断への応用では、この色素を混ぜ込んだ塗料を土木構造物に塗装し、塗膜内に同センサーを内包させるというもの。例えば、コンクリートなどの母材にひび割れが入り、酸素が侵入。開発した塗料であらかじめ塗装しておき、診断箇所にブラックライトを当てることで、劣化部分のみ発光しない。ブラックライト1本で、構造物の劣化状況が簡易的に診断でき、破壊箇所の可視化や簡便な点検方法に繋がると期待されている。
 
木構造物の劣化の可視化は、色調や発光などによる新材料として、応力作用時に発光する「応力発光体」が有名である。この材料は、応力が作用した瞬間のみ発光する。一方、土木研の研究では、劣化部分にブラックライトを当てても発光しないため、劣化検出が継続して診断できる。つまり、劣化履歴が残ることが「ひび割れを検知する塗料」の特徴でもある。また、光との反応により劣化状況を検出することからも、トンネル内部の暗部箇所等で最大の効果が見込まれる。

塗料は、バインダー用の高分子と、酸素センサーの素子となる色素を添加し、溶剤で生成した。研究段階での色素はポルフィリンを使用。この塗料を下塗りの上に積層させ、ガスバリア性の高い高分子で封止する。トップコートはクリア塗膜であれば既存の塗料が使用できるという。

図2ひび割れ検出塗膜の積層例(土木研提供)


この塗料を用いた発光によるひび割れ検出方法であるが、健全状態ではガスバリアされているため塗膜内に酸素はなく、強く発光している。母材にひび割れが生じると、塗膜内に大気中の酸素(濃度21%)が侵入することで迅速に応答(消光)する。特殊な機器を使用せずとも目視で確認ができるほど発光/消光の検知能力は高い。発光強度の変化を確認するため、計測用カメラで発光像を解析したところ、発光部と消光部では発光強度の比は5・0程度あった。一般的な光学センサー材料の感度指標が3・0以上としているので、このセンサーの感度の高さがうかがえる。

劣化検知のメカニズム

今後の課題であるが、前述したように高感度の検出ができるため、ノイズ程度の劣化でも酸素が侵入すれば、消化現象が起きる。劣化の度合までは判断できないため、今後は、ひび割れ幅と発光消化の閾値のコントロールが必要である。また、耐候性にも問題があり、屋外使用に耐える強固な塗膜層の形成には、色素を顔料などに代替できないか等の研究が進められている。さらに、実際のメンテナンスシステム方法の構築も不可欠だ。近接目点検が不可能な場所では、LEDライトの投光器をあてることで、劣化が検出できるなど確認できているが、さらに自走式カメラやロボットによる省人化により、構造物の診断や点検の負担を軽減できる可能性も考えられる。

研究担当者は「実用化に近づくにつれ、塗料メーカーをはじめとする関係機関との協力が必要になる」と話し、新技術の応用には、強固な連携が求められる。