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日本インダストリアルデザイナー協会 事務局長 山口正幸氏

”色”への意識高めよ 広がるマーケット効果に対応

インダストリアルデザインと塗料・塗装との関わりということであるが、私は事業会社で、色の提案をメーカーにする仕事をしていたのだが、塗料は色の深みを出すのに圧倒的に有効だ。車の部品などにも樹脂で無塗装のものが出てきているが、塗料に比べると表現力は弱い。自動車の例で言うと環境規制が極端なほど強まらない限り、塗料を材料として使い続けると思う。

一方で、インダストリアルデザイン全体を通して見ると、色に関しての意識はそこまで高くない。色を表現する塗料・塗装の認識は低いと言わざるを得ない。例えば、我々は「JIDAデザインミュージアムコレクション」という事業を行っている。これは、「美しく豊かな生活を目指して」をテーマに、インダストリアルデザインが社会に寄与する質の高い製品を選定し、表彰するもの。さらに、その製品を収集保管して次世代に伝えることを目的としている。この選定基準に、色ないし塗装という観点は一切入ってこない。基準には「高度なデザインを達成しているもの」や「デザインコンセプトに革新性を有する」等とあるが、色は選考に余り関わっていない。個人的には色がもたらすデザインへの影響はかなり高いと思っているが、自動車メーカーは例外としても、これまで重要視はされてこなかった。

しかし、家電メーカー等も変わりつつある。シャープのヘルシオが出来きたのが、10数年前。それまで、電子レンジといえば、白がほとんどだった。ヘルシオの登場から、今では赤は、家電で一般的な色になってきている。当初は、ヘルシオが出した赤は”Try カラー”であったと思うが、現在は”Mast カラー”になった。色にマーケット効果がある事例だと思う。

企業が革新的なイメージを描かせるには、色は手っ取り早い。生産設備の変化は、ほとんどいらないのだから。また、自動車の車種のバリエーションが多くなってきているのも、色はマーケティング効果が高いという表れでないか。

また生産面でも、家電メーカーは事業部制を取ったため、同じメーカーなのに、家電の種類によっては同色が違うということがあった。エアコンや空気清浄機で違う色の白ということもあったぐらいだ。このような点は、改善されてきている。

一方で、アメリカの大手飲食チェーンや飲料会社のグローバル企業は、ブランドカラーを統一させるために、屋外の看板などの造作物に5年先の塗料が退色した場合の色まで考慮されたマニュアルを作り、基準を設けている。全世界で同じ色を出す努力は凄まじい。ブランドカラーを守るための色への認識が高い。

インダストリアルデザインの色への認識について述べてきたが、塗料という材料を使った色は無限に広がるため、全体的な評価が難しいところはある。人によって色の見え方が微妙に違うことも起因するであろう。しかし、色の文化の関係性や流行色の発表によるトレンドの見極めなど、企業内デザイナーは色について、もう少し本気になる必要がある。

※本インタビューは2016年10月27日号(4156号)塗料報知新聞社「創立70周年記念特大号」の特別企画です。「塗料・塗装の利点と問題点」を業界の有識者にインタビューしたものです。