WEB塗料報知|塗料・塗装、コーティング業界のプラットフォーム

ハードコートの性能向上・塗料に関わる新技術

ハードコートの性能向上・塗料に関わる新技術 <株式会社 魁 前原大介>

ガラスの代替となるポリカは、その使用目的からハードコートが使用されている。このハードコートの性能向上に関する研究および、塗料の製造・塗布工程に関わる新技術を紹介する。

キーワード

ハードコート、プラズマ、粉体表面改質、環境負荷低減、分散性向上

1. はじめに

携帯電話やゲーム機の液晶面や車の窓、建材などに使われる、ガラスの代替となるポリカは透明(可視領域における光透過率85〜90%程度)な素材であるが柔らかく(鉛筆硬度2B程度)、その使用目的から傷が付き難いことが要求されるため、耐擦傷性を向上させた表面硬度の高い各種のハードコートが使用されている。このハードコートにはその使用目的から、表面硬度(鉛筆硬度H以上)・透明性(可視領域における光透過率90%以上)が求められており、特に硬度や塗布性能の向上が盛んに研究されている。今回はハードコートの種類や製法から塗布工程までを追いつつ、これらを解決するための手法を紹介していく。

2. ハードコート

ハードコート材料はそのコーティング材の形態を取るものと、シート状になっているものの2種類あるが、ここではコーティング材を取り上げる。

コーティング材としてのハードコートはその原料から三種類に分類される。
・有機系:硬度は他の二種に比べ低いが、取り扱いが容易でリコートが可能。
・シリコン系:最も硬度が高く、耐久性も高いがリコート性が難しい。
・金属系:硬度は高いが、塗膜形成に焼成が必要など、条件が限られる。

特にシリコン系ハードコート材料は硬度(鉛筆硬度4H程度)・透明性(可視領域において90%以上)・耐薬品性に優れているが、その耐薬品性から溶媒の種類が限られ、塗布する対象物によってはプライマーによる前処理が必要である。そのため塗布が容易な有機系ハードコート材料の硬度(鉛筆硬度HB程度)向上や、硬度に優れたシリコン系ハードコート材料の塗布性能向上、両者のメリットを取り入れたハイブリッド型などの研究が進められている。

一般に塗料はその形態から図1で示される三種に分類されるが、これらコーティング剤としてのハードコート材料は、溶液形もしくは分散形の形態をとっている。そのため、溶媒として使われる揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の影響が課題となっている。

 

プリント

図1 塗料の形態による分類

    3. 製法

3.1 ハードコートの材料製造

ハードコート材料製造の流れを図2に示す。粉砕工程で粉体をさらに細かく、粒径を均一にすることで分散させた際に均一性が向上する。これにはミルと呼ばれる装置が広く使われている。

・ローラーミル
ローラーと回転する鉢状容器との間で粉体をすりつぶす技術
・ジェットミル
圧縮空気や、高圧ガスにより粉体を加速させ、衝突時の衝撃を利用して粉砕する技術
・ボールミル
回転する容器の中にボールを入れ、ボールや壁面との接触や衝突時の衝撃で粉砕する技術

液体塗料は使用する溶媒により、有機溶媒を用いる油性と水を用いる水性の二つに分けられる。一般に有機溶媒を用いるほうが分散性や塗装の容易さに優れ、特にシンナーは用途により様々な種類が存在している。しかし同時に毒性や環境被害を持つことも広く知られており、作業者の健康被害や周囲の環境への悪影響などが大きな課題となっており、VOCの少ない水性塗料の開発が進められている。

ハードコート材料製造の流れ

図2 ハードコート材料製造の流れ

3.2 魁半導体のプラズマ技術

今回紹介する株式会社魁半導体で開発されたプラズマ技術は、ドライプロセスで原料を親水化し、水への分散性を高める事が可能な技術である。プラズマとはある一定の空間においてイオンや荷電子が支配的な状態を指しており、非常に不安定で化学的に反応性の高い状態である。この状態を利用し、粉体の表面に親水性の官能基を修飾することで、写真1のように粉体そのものを親水化することが可能である。これにより幅広い粉体を水に分散させ、VOCを低減することに期待が持たれている。

この技術を用いて、シリコン粉体を表面改質し多種多様な溶媒に混ぜ、塗布性能を向上させる試みが進められている。また、シリコン系ハードコートに対し硬度等に劣る有機系ハードコートだが、分散の際にシリコン粉体を微量に混合することにより、高い硬度(2H程度)や耐薬品性を持ったハイブリッド型の研究も進んでいる。

プリント

写真1プラズマによる炭素粉体の親水・分散処理

3.3 分散行程

分散の際には溶媒と原料との混合比率が重要であり、粉体供給機などで定量的に投入を行うことが多い。分散には様々な装置が使われており、上記の粉砕を同時に行うものも少なくない。

・ミキサー
容器中の粉体と溶媒を、攪拌羽根の上下運動や回転により分散させる技術
・ホモジナイザー
粉体と溶媒の混合物に高圧をかけ、回転刃で破砕しつつ、溶媒に分散させる技術
・ロッキングミル
粉体と溶媒の入った容器を、搖動させることで分散させる技術
・湿式ボールミル
ボールミルの容器内に粉体と溶媒を同時に入れ、粉体を粉砕しつつ溶媒に混ぜ込む技術

<続き、4. 塗装>

1 2