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高耐食性めっき対応のマグネシウム含有亜鉛末塗料

4.亜鉛粉末と亜鉛フレーク粉末の併用

さて、当社で使用している亜鉛粉末は、球形の粉末(粒径4μ 色:グレー)と、それを研磨加工し、亜鉛粉末そのものに光沢を持たせた亜鉛フレーク粉末(粒径2μ 色:シルバー)の2種類がある。球形の亜鉛粉末だけを使用した塗料は「ジンクZ96」という製品名で、仕上がり色はグレーとなる。一方、亜鉛フレーク粉末のみ使用した製品は「スーパージンク」で、仕上がり色はシルバーである。今までの当社製品では、この2種類の粉末を併用した製品はなかったが、「マザックス(MAZAX)」に使用するアルマグ合金粉末は、亜鉛粉末よりも10倍以上も大きいため、できる限り緻密な塗膜を形成して、粒径の大きなアルマグ粉末でカバーする必要性があると考え、この2種類の亜鉛粉末を併用することに決めたのだった。

002a亜鉛粉末

002b

写真2 亜鉛粉末 (上:粉末写真、下:顕微鏡写真)

003abisbis亜鉛フレーク

003b亜鉛フレーク

写真3 亜鉛フレーク粉末 (上:粉末写真、下:顕微鏡写真)

亜鉛粉末と亜鉛フレーク粉末の割合を変えながら促進腐食試験を行い、最適な配合を見出したうえで、アルミペーストとアルマグ合金粉末を添加して、バランスの取れた配合を探した。その結果、乾燥塗膜中のアルミニウムの含有量が6%、マグネシウムが3%という配合比が最も耐食性が高くなることが分かった。

こうしてアルマグ合金粉末と亜鉛、亜鉛フレーク、アルミペーストを併用した緻密な塗膜が設計されたのであった。

5.耐食性試験について

耐食性の評価としては促進腐食試験があるが、大きく分けて塩水噴霧試験と複合サイクル試験の2種類がある。前者はひたすら塩水をかけ続ける試験であるのに対し、後者は、塩水/湿潤/湿風乾燥/熱風乾燥を繰り返す過酷な試験となっており、より屋外暴露に近い状態とされている。

この2つの試験においては、「マザックス(MAZAX)」と、従来品として他社亜鉛アルミ系亜鉛末塗料、溶融亜鉛めっき(HDZ55)との比較試験を行った。他社亜鉛アルミ系亜鉛末塗料と比較試験をしたのは、高耐食性めっき鋼材メーカーの推奨品であったためである。また、マグネシウムを添加したことの効果を分かるようにするため、アルマグ合金粉末を添加しない状態の塗料を作成して、同時に試験することにした。塗膜厚は、50μと80μで試験を行っている。

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図1 「マザックス(MAZAX)」塗膜断面写真と断面図

005bisbisSST試験(塩水噴霧)

表1 「マザックス(MAZAX)」塩水噴霧試験結果(SPCCダル鋼板)

JIS K 5600-7-1 塗料一般試験方法 第7部:塗膜の長期耐久性 第1節:耐中性塩水噴霧性
  ※1 マザックス(Mg無添加)は、マザックスに使用しているAlMg合金粉末を添加していない状態の塗料
  ※2 溶融亜鉛めっき(HDZ55)の試験データは、以前に行った試験データを転載している

006CCT試験(複合サイクル)

表2 「マザックス(MAZAX)」複合サイクル試験結果(SPCCダル鋼板)

IS K5600-7-1 塗料一般試験方法 第7部:塗膜の長期耐久性 第1節:耐中性塩水噴霧性 5%濃度塩水、槽内温度35℃ 1サイクル:塩水噴霧1hr(30℃)→湿潤2hr(30℃ 95°RH)→熱風乾燥2.5hr(50℃)→湿風乾燥2.5hr(30℃)

※1 マザックス(Mg無添加)は、マザックスに使用しているAlMg合金粉末を添加していない状態の塗料
※2 溶融亜鉛めっき(HDZ55)の試験データは、以前に行った試験データを転載している

5-1.塩水噴霧試験

塩水噴霧試験を1500時間行った結果、50μでも80μでも優れた防錆力を発揮することが分かった。特に膜厚50μ時の試験結果が良好であり、他社亜鉛アルミ系亜鉛末塗料や溶融亜鉛めっきよりも優れていた。

5-2.複合サイクル試験

複合サイクル試験は、塩水噴霧1時間、湿潤2時間、熱風乾燥2.5時間、湿風乾燥2.5時間の計8時間を1サイクルとし、160サイクル試験を行った。結果として、塩水噴霧試験と同様に、50μでも80μでも優れた耐食性を発揮することが分かった。上の試験写真では、膜厚80μ時の方が結果が悪いように見えるが、促進腐食試験時のテストピースの場所等でも周りからのもらい錆を受けることがある為、クロスカット部で判断する。クロスカット部の錆の発生は少ないため、十分な強靭さを持つことが分かる。

5-3.試験まとめ

アルマグ合金粉末を添加したものと、添加していないものを比較した場合、添加していないものの方が、耐食性に劣ることがわかる。つまり、塗膜中に含有されたマグネシウムには、添加しているだけの効果があったことを示すことになる。その中でも50μ時にも良好な結果が出た原因としては、緻密な塗膜を作り上げた成果だと考えている。

そして仮説であるが、アルマグ合金粉末を亜鉛粉末やアルミペーストが包み込む形となり、相乗効果で高い耐食性を発揮していると考えられる。これは、アルマグ合金粉末もしくはマグネシウムそのものが金属表面のカソード反応を抑制して、腐食の進行を遅らせているためだと思われる。

こうして、亜鉛末塗料において、第1の亜鉛のみのもの、第2の亜鉛アルミ系のものに続いて、乾燥塗膜厚50μでも従来品よりも耐食性が高く、なおかつ乾燥塗膜中に亜鉛、アルミ、マグネシウムを含有する第3の塗料が完成した。

6.今後の展望

「マザックス(MAZAX)」は、今年の5月にエアゾールスプレーを、6月初旬には刷毛塗り用を発売開始した。反響は大きく、現在までに多くの問い合わせを頂き、すぐに採用に至ったケースおよび試験を始めているケースが多数ある。

また、その中で様々な追加試験の必要性も生じており、現在はそれらを行っている最中である。さらに、鋼板メーカーとの共同試験も行っており、特にマザックス(MAZAX)塗布面に対する上塗りについて、詳しい試験に取り組んでいる。

そして、試験が完了次第、それらの結果を当社ホームページ(http://www.nissin-industry.jp/)に掲載するので、ご覧いただきたい。また、カタログにも掲載して行く予定である。

なお、本製品の特許に関しては、現在申請中となっている。

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写真4 「マザックス(MAZAX)」各種製品

7.おわりに

弊社は、昭和57年の設立以来、亜鉛めっきの補修剤を専門に扱う塗料メーカーとして、市場のニーズに応えられるように、様々な補修剤および補修塗料を開発し発売してきた。今後も現場の声にできるだけ応えることができるよう、めっき補修剤の専門メーカーとしての地位を確立して行きたいと考えている。

 執筆者Profile

川西 紀哉(かわにし としや)日新インダストリー株式会社 代表取締役社長

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