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【対談】空間産業を共創で進化 劉栄駿 社長×町田ひろ子 校長

建築・インテリア・施工といった空間産業は、デジタル技術の進展とともに大きな転換期を迎えている。こうした中、空間3Dスキャン技術を展開するnatと、インテリア人材育成で長年実績を積み重ねてきた町田ひろ子アカデミーの吸収分割(事業承継)は、異分野が交わることで、新たな価値創出を生み出す取組みの一例である。本対談では、両者の出会いの背景から、空間DXの可能性と人材育成、そして業界の未来像まで、〝共創〟を軸に語っていただいた。

IT×教育が拓く新たな価値創出

劉 栄駿氏(nat代表取締役)

3Dスキャンアプリ「Scanat」を展開し、建築・インフラ分野のDXを推進。令和7年度インフラDX大賞 「スタートアップ奨励賞」を受賞している。
好きな色:スカイブルー

町田ひろ子氏(町田ひろ子アカデミー校長)

インテリアコーディネーターの草分け的存在として人材育成に尽力。人の脳神経に影響を与える「神経美学」を駆使し実プロジェクトも手掛ける。
好きな色:ラベンダー

エンドユーザー視点の共鳴

―natと町田ひろ子アカデミーが連携に至った背景についてお聞かせ下さい。
 当社はスマートフォンで空間を3Dスキャンする技術のアプリを開発しており、当初はリフォーム会社や工務店との連携を中心に進めてきました。ただ、スキャン後の設計や提案の領域を高度化するうえで、デザインや、建築設計に関する知見が足りていないことが課題でした。そのため、こうした分野に強みを持つ設計事務所を探していました。

町田 本校の特徴は、アカデミーという学校と同時に『青山スタイル』というブランドでインテリア設計を両輪で進めていてそれが劉社長の目に止まったのです。

実際にお会いし、印象的だったのは徹底したエンドユーザー視点です。企業側の論理ではなく、住む人にとって何が必要かという発想から出発している点に共感しました。

―具体的には、どのようなことでしょうか。
劉 私自身、マンション購入時に家具選びで苦労した経験がありました。寸法や色味を正確に把握できない不便さを感じたことが、空間をそのままデジタル化するという発想につながりました。

町田 インテリアコーディネーターも同様に、住み手の視点から空間を考える職種です。出発点は異なりますが、互いに目指している方向が一致していたことが信頼につながりました。

デジタルと感性の融合

―両社の連携から約半年が経過しました。異なる分野の融合によって、どのような変化が生まれていますか。
 本校の教育現場を見て感じたのは、基礎はしっかりしている一方で、その先のデジタル活用が十分に進んでいないという点です。図面は紙で学びますが、その後の応用にデジタルが活用されていません。この部分を補完することで、人材の能力は大きく変わると感じました。

町田 私自身も紙中心の世界で育ってきましたが、今回の連携を通じて「本当に残すべきものは何か」を改めて考える機会になりました。すべてをデジタルに置き換えるのではなく、感性や経験とどう融合させるかが重要だと感じています。

 当社は創業当初からデジタル前提で事業を進めてきましたが、実際の現場では紙が不可欠な場面も多くあります。無理に置き換えるのではなく、業務フロー全体を見直しながら最適化していく必要があると考えています。

―3Dスキャン技術は現場にどのような変化をもたらしますか。
 リフォームや改修の現場では、計測や情報共有に多くの手間がかかっています。営業担当が取得した現場の情報を設計に正確に伝えることも難しいのが実情です。3Dスキャンによって空間をそのまま共有できれば、認識のズレを大きく減らすことができます。

町田 平面図では伝わりにくかった内容を、立体で共有できる利点は非常に大きいと感じています。設計者、施工者、そしてユーザーが同じ空間を見ながら議論できることで、意思決定の質も変わってくるのではないでしょうか。

―立体化により、ユーザーに寄り添った視点が生まれるということですね。
 さらに、色や素材の検討においても、視覚的に確認できることの価値は大きいと考えています。従来は経験に依存する部分が多かったですが、より客観的な判断が可能になります。

町田 私は、これからは立体空間の時代だと考えています。人は視覚から多くの情報を得るため、空間をどのように見せるかが重要になります。こうした感覚は、私が提唱してきた神経美学の考え方とも重なるものです。デジタル技術により、その可能性はさらに広がっていくと考えています。

色彩提案の広がり

―塗装や材料分野への影響についてはいかがでしょうか。
 塗装分野においては、面積算出や見積の効率化に大きく寄与できると考えています。また、施工前に仕上がりイメージを共有できる点も重要です。

町田 塗料・塗装の業界は技術力が高い一方で、ユーザーへの価値提案が十分とは言えない面もあると感じています。本来、色や仕上げの選択はもっと自由で楽しいものであるはずですが、現状では選択肢が限定されていると感じる場合も多いのではないでしょうか。

例えばフランスでは、白色だけでも200色以上の選択肢があるといわれ、空間づくりの自由度が非常に高いと感じます。日本においても、デジタルスキルを活用すると、より創造的な提案が可能になると考えています。

―海外の選択肢はかなり幅が広いのですね。
 そうした点からも、技術そのものより、それをどう活用するかという発想が重要です。ツールの導入が目的ではなく、それによって何を実現するのかが問われています。

人材育成と女性活躍の可能性

―人材育成や女性活躍についてはどのようにお考えですか。
町田
 建築や塗装分野では人材不足が課題と聞いていますが、発想を変えれば新たな可能性も見えてきます。デジタル技術を活用することで、従来は現場に出なかった女性にも活躍の場が広がるのではないでしょうか。

 3Dスキャンは、危険を伴わず、特別な技能を必要としないため、女性や若手でも扱いやすい技術です。実際に現場で活用が進めば、新しい働き方が生まれる可能性もあります。

町田 最も重要なのは、仕事の魅力をどのように伝えるかです。若い世代が「やってみたい」と思える環境をつくることが必要であり、そのためには技術と発想の両面から変えていく必要があります。

―最後に、今後の展望についてお聞かせください。
 スキャン技術は世界共通であり、今後は海外展開も視野に入れています。また、空間を再現するだけでなく、その先の設計や提案機能の強化にも取り組んでいきたいと考えています。将来的には、必要な空間やサービスをユーザーが手軽に選び実現できる「住まいのウーバーイーツ」のような世界を目指しています。

町田 これまで人材育成に集中し力を注いできましたが、今後は学びをビジネスにつなげる仕組みづくりを進めていきたいと考えています。デジタル技術を活用することで、より多くの人が自らのスキルを社会に活かせるようになるはずです。

 今回の連携は単なる事業の統合ではなく、新たな価値を共に創り出す取組みです。教育とテクノロジーが結びつくことで、空間産業全体に変革をもたらす可能性があると考えています。

町田 建築業界は今、大きな転換期にあります。だからこそ、既存の枠にとらわれず、新しい発想で未来を描いていくことが求められています。

ーありがとうございました。