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3M、工業塗装における安全衛生対策ソリューション

スリーエム ジャパン株式会社 安全衛生製品事業部は、1976年以来、安全衛生に関連する多くの製品を提供してきた。日々変化する社会環境や、ビジネスシーンにおける高いニーズに応えるため、充実した製品群だけではなく、安全衛生活動をサポートする様々なサービスも用意しており、製品とカスタマーサポートの融合によるトータルソリューションを提供している。今回は、防毒マスクの吸収缶の有効時間をシミュレーションできる「3M™ サービスライフソフトウェア」を紹介する。

【キーワード】

化学物質管理、リスクアセスメント、リスク低減措置、保護具、防毒マスク、吸収缶、化学物質管理者、保護具着用管理責任者

【著者】

山川 純 [スリーエム ジャパン イノベーション株式会社]

新たな化学物質規制への移行

国内で輸入、製造、使用されている化学物質は数万種類にのぼるが、特化則などで個別具体的な規制があるのは123物質となっている。その一方で化学物質を原因とする労働災害は年間450件程度発生しており、がん等の遅発性疾病も後を絶たない。この労働災害のうち、個別具体的な規制の対象となっていない物質を起因とするものが約8割を占めている。

これらの事実を踏まえ、2022531 日に労働安全衛生規則等を改正する省令が公布され、関連する告示が発出された。これにより、化学物質管理は「特定の化学物質に対する個別具体的な規制」から「自律的な管理を基軸とする規制」へ移行していくこととなった。

規制項目の一つにリスク低減措置の実施がある。具体的には、呼吸器へのばく露濃度を基準値以下にすること、および皮膚等障害化学物質への直接接触を防止することが必要である。リスク低減措置としては工学的対策(局所排気装置の設置等)などが保護具の使用よりも優先される。しかしながら、技術的・経済的な面で工学的対策などを適用できなかったり、適用してもばく露等を許容されるレベルまで低減できない場合、有効な個人用保護具によるリスク低減措置が検討される。

塗装作業で使用されることがある保護具を図1および2に示す。保護具は労働者を守る最後の砦であり、間違った保護具選択や誤使用は、ただ単に役に立たないだけでなく災害につながることもある。保護具は適切に運用されないと正しい効果が発揮されない。


図1 3Mが提供する防毒マスク

 

図2 ゴグル(左)、化学防護服(右)

 

防毒マスクの正しい運用管理

工業塗装で使用する塗料に有機溶剤が含まれる場合、有害な有機溶剤蒸気から呼吸器を保護するために防毒マスクが一般的に広く使用されている。防毒マスクは面体と吸収缶を組み合わせて使用され、吸収缶に含まれる活性炭が環境中の空気から有害ガス・蒸気を吸着・除去することで、着用者は清浄な空気を吸うことができる(図1)。吸収缶の吸着能力は有限であり、一定量の有害物質が吸着されると飽和現象が起こり、有害物質は吸収缶を通過してしまう。

この現象は「破過」と呼ばれ、「破過した」吸収缶を装着していても呼吸器を保護することはできず、結果としてマスク着用者は有害物質を吸入してしまう。労働災害に至ってしまうケースもあり、それを防ぐためには、破過する前に(有効時間内に)吸収缶を交換することが必要である。

吸収缶の有効時間は有害物質の濃度・種類、作業環境の温度・湿度、作業者の呼吸量など様々な影響を受ける。そういった状況も考慮して吸収缶の有効時間を推定し、その有効時間内で吸収缶の交換スケジュールを策定することが防毒マスクを運用するうえで必要である。吸収缶の有効時間を推定する方法として、破過曲線を使って推定する方などがある。破過曲線は吸収缶に添付されており、ガス濃度に対応する吸収缶の破過時間を読み取ることができる。

ただし、実際に作業環境に存在するガスの破過曲線が利用できるのかであったり、温度や湿度の影響なども考慮する必要がある。3Mでは吸収缶の有効時間をシミュレーションできる3M™ サービスライフソフトウェア」を無料で提供しており、有機溶剤の種類はもちろん、温度・湿度・呼吸量も反映してシミュレーションが可能である。また、複数の有害物質が混合している場合でも簡単に計算することができる。

シミュレーション結果の一例を本稿に示す。有機ガス用吸収缶であればシクロヘキサンの破過曲線が吸収缶に通常添付されているので、ここではシクロヘキサンではない溶剤、かつ混合成分の状況を想定してシミュレーションを実施した。表1に溶剤種類などの状況を示すが、それらの情報をソフトウェアに選択・入力するだけで図3に示すような結果を簡単に得ることができる。

シクロヘキサンより有効時間が短い物質もあり、また温度・湿度が高いと有効時間は短くなる。本ソフトウェアの活用により、吸収缶の有効時間推定に実際の作業環境を適切に、そして簡単に反映することができ、吸収缶の正しい交換を図ることが可能となる。また、シミュレーション結果はPDFでダウンロード可能である。化学物質管理者や保護具着用管理責任者が職務を遂行するうえでも活用できるツールとなりえる。

まとめ

保護具の使用によりリスク低減措置を適切に実施するためには、保護具の適切な選択だけではなく管理も欠かせないものである。本稿により防毒マスクの吸収缶の機能や適切な運用管理について十分に理解され、安全衛生管理を遂行するうえで一助となれば幸いである。なお、スリーエム ジャパンでは、同社安全衛生製品事業部による呼吸器保護具の情報発信を行っている。

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      著者:山川 純(Jun Yamakawa)

スリーエム ジャパン イノベーション株式会社 安全衛生製品技術部
2017年入社。呼吸用保護具をはじめとした個人用保護具製品の開発や技術サービスに従事し現在に至る。
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