塗料・塗装の価値体現、新旧に彩りが果たす新時代
塗料・塗装は単なる表面保護の枠を超え、企業のブランド価値を具現化し、都市の歴史を未来へ繋ぐ結節点となっている。旧行政棟を保存・活用した「OMO7横浜」は建築再生の新たなモデルとなり、「近畿日本鉄道」の新型車両は色で伝統と進化を表現。廃線となった旧晴海鉄道橋は、塗装の力で市民の憩いの場へと劇的な復活を遂げた。本企画では、塗装対象物に対し、新たな息吹を吹き込む「塗料・塗装の価値」を、最新のプロジェクトを通し、浮き彫りにする。
OMO7横浜、旧庁舎の意匠継承と保護

旧横浜市庁舎を活用した「OMO7横浜」の外装(提供:星野リゾート)
星野リゾートが展開する都市型ホテル「OMO7横浜」が、旧横浜市庁舎を活用した再生プロジェクトとして4月21日に開業した。歴史的建築の価値を継承しつつ新たな宿泊体験を提供するレガシーホテルとして生まれ変わった同施設では、塗装が意匠の継承と建物保護の両面で重要な役割を担っている。
外壁の柱や梁まわりは、コンクリートの保護と経年劣化への対応を目的に塗装を実施。施工を担当した竹中工務店は「下地保護を前提としながら、既存建物の風合いを損なわない仕上げとした」と説明する。単なる塗替えではなく、歴史的意匠を尊重した設計が求められていた。

「OMO7横浜」の内装(提供:星野リゾート)
色彩計画においても、新旧融合の思想が貫かれている。外壁は、旧市庁舎時代の塗装色に近似させることで、関内の街並みとして長年親しまれてきた景観を継承。屋上の鉄塔も同様に塗装を施し、街のシンボルとしての存在感を保ちながら耐久性向上を図った。「周辺との連続性を意識し、これまで築かれてきた景観価値を引き継ぐことを重視した」(同)と語る。
本プロジェクトでは、塗装を単なる仕上げにとどめず、建築の記憶を未来へ繋ぐ手段として活用している点が特徴である。「新旧融合」をテーマに掲げる同施設において、その実現には塗装の果たす役割は大きい。都市再生における塗装の価値を体現する好例であると言える。
なお塗料については、外壁に弾性塗膜によりひび割れ追従性と耐久性を確保する水性アクリル系塗料を採用。上塗りにはエスケー化研の「SK水性ELコート」を使用している。
近畿日本鉄道、 アルミ新型通勤車に塗装

進化の青で新時代の息吹を感じさせる「1A系」(提供:近畿日本鉄道)
近畿日本鉄道では、24年ぶりに新型一般車両として8A系を2024年に奈良線・京都線系統に導入。続いて2026年には1A系を大阪線・名古屋線系統に導入した。車体はアルミニウム合金製だが、無塗装による素材地肌の銀色ではない。外観は8A系が赤と白、1A系が青と白のツートンで塗装されている。
なぜ塗装なのか。近鉄は「ブランドイメージを色で表現するため」と語る。無塗装が主流のなかで、あえて色を纏わせることで、企業としての姿勢や路線の個性を視覚的に伝えようとした。塗装の方が表現の幅が広がるという判断でもあった。
そして注目すべきは、赤と青という2モデルを導入したこと。近鉄は今回の新型車両を「大きな変化点」と位置づけ、その色に「伝統を守りつつ進化していく」という思いを託す。赤は「伝統の赤」。奈良線・京都線に長く親しまれてきた色を継承し、過去から未来へと続くレールを象徴する。一方の青は「進化の青」。大阪線・名古屋線が伊勢志摩へとつながる路線であること、そして近鉄のコーポレートカラーとの親和性を踏まえ、新しい時代の息吹を感じさせる色として選ばれた。
デザイナーが込めたのは「落ち着き」と「品」。赤も青も、派手さではなく、日々の生活に寄り添う通勤車両としての佇まいを大切にしたという。

進化の青で新時代の息吹を感じさせる「1A系」(提供:近畿日本鉄道)
なお、塗料は日本ペイント・インダストリアルコーティングスの「nax マイティラック G-Ⅱ KB型」を採用している。駅で赤や青の新型車両を見かけたら、その色に込められた物語を回想するのも楽しい。
旧晴海大橋、次代へ繋がる鋼の遺構
赤さびに侵され、雑草が茂る鋼の構造物が、塗料・塗装の力で劇的な復活を遂げた。東京・中央区にある旧晴海鉄道橋は、かつて「臨港鉄道港湾局専用線晴海線」の一部として供用された橋梁である。1989年の廃線後から立ち入り禁止の状態であったが、2025年9月に遊歩道(春海橋公園遊歩道)として生まれ変わった。

立ち入り禁止の状態から建築当時の色彩を忠実に再現した「旧晴海大橋」
復活を遂げるまで35年余り。撤去の声もあったが、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催決定を契機として、臨海部の新たな価値創出の議論が行われた。そして港湾局は、歴史的価値を保存し、隣接する各公園をつなぐ水辺のネットワークを目的に、歩道橋へ再生することを決めた。
整備方針は「建設当時の姿を通じて、培われた産業文化と地域の発展の融合を享受できる空間の創出」とした。色彩は、建設当時の青緑系(マンセル値2.5BG5.5/3)を忠実に踏襲。なお、橋梁の補強は歩行者の目に触れない箇所で行う等の工夫を凝らした。さらに鉄道レールの再設置や枕木を再現し、それらは視認できるガラス床の採用により、ウォーカブルな空間の中で鉄道の記憶が息づく。

鉄道レールの再設置や枕木を再現
既設アーチの塗装系は、RC‐1。日本ペイントの塗料を使用し、上塗りは「デュフロン100ニューファイン」を採用。無機ジンクの封孔処理には、ミストコートを行うなど長期防食に向けた万全の処置が取られた。本来「鉄道」を支えるためだけに設計された橋が、新たに「歩行者」を迎え入れる遊歩道へと、その用途を根本から変えた事例だ。
