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カラーユニバーサルデザインの今

味覚や嗅覚と同様に、色覚も人によってそれぞれ異なる。一般の人に見やすくするために色分けしたことが、特定の色が見えにくい色弱の人にはかえって見分けにくく、困惑してしまう事例が少なくない。また、一般の人でも病気や高齢化で色の見え方に変化が生じたりする場合もある。こうしたことに対して、情報が誰にでも正しく伝わるよう、色の使用方法や文字の形をあらかじめ配慮することが「カラーユニバーサルデザイン(CUD)」である。2色以上の使用する場合に、できるだけ多くの人が見分けることができる色使いを行うことであるが、色使いを整理することで一般の人にも分かりやすいものとなる。分かりやすい色使いについて活動を進めているカラ―ユニバーサルデザイン機構(CUDO)の伊賀公一副理事長に、CUDの現況について取材した。

日本には色弱の人が男性で20人に一人、女性で500人に一人

CUDOでは、人の色の見え方(色覚)を5タイプに分類。一般色覚者としてC型、色弱者としてP型(強・弱)、D型(同)、T型、A型という呼称を提案している。

目の奥には網膜があるが、ここには色を感じる視細胞があり、これが赤・緑・青の波長の光の刺激を受けると、電気信号となって脳に伝わり、色を認識する。この3種類ある視細胞のいずれかの機能の特性が異なると、色の見え方が変わる。3種の視細胞を持つ一般的な色覚がC型、赤の波長を受ける視細胞がないか、あっても特性が異なるのがP型、緑の波長を受ける細胞がないか、あっても特性が異なるのがD型で、この二つは赤~緑の波長域での色の差を感じにくい。青の波長を受ける視細胞がないか、あるいは特性が異なるのがT型で、このタイプは黄~青の波長域での色の差を感じにくくなっている。

日本にはこうした色弱の人が男性で20人に一人、女性で500人に一人いると考えられている。

カラーユニバーサルデザインの認知度は広がりつつある

CUDOは、誰にでも分かりやすくカラーユニバーサルデザインに配慮してデザインができるようにするため、①できるだけ多くの人に見分けやすい配色を選ぶ②色を見分けにくい人にも情報が伝わるようにする③色の名前を用いたコミュニケーションを可能にする、をポイントに定めている。

カラーユニバーサルデザインの考えは浸透してきて、学校の教科書や電子化された黒板、企業の環境報告書や決算報告書、金融機関の帳簿類は配慮されるようになった。銀行の窓口やATMも配慮されていて、病院のナースコールシステムにも導入されている。

以前は色使いや表記の方法が色弱者には分かりづらかった、駅のサイン類も最近は改善が進み、見やすくなってきている。同じく分かりにくさの代表であった家電のリモコンも改良され、洋服のタグや文具類の表記といったものも配慮がなされている。

昨年9月に刊行され、ちょっとしたベストセラーにもなった東京都の防災ブック「東京防災」もカラーユニバーサルデザインを考慮し、誰でも使えるものになっている。このように、カラーユニバーサルデザインに対応したものは確実に増えてきている。しかし、確実に配慮しなければいけないという意識はまだ低いという。

伊賀副理事長はP型の色弱者でありながら1級カラーコーディネーターの資格を持つが、現状では色弱のデザイナーはほとんどいないので、配色に関わるデザイナーは一般色覚者ゆえに、カラ―ユニバーサルデザインについては知らない、あるいは分からないというケースがほとんど。感度の高い、意識の高いデザイナーであっても、カラ―ユニバーサルデザインのことは、つい最近知ったという人が多いそうだ。

「どの分野においても、単に配慮するより、事業者が色弱者と一緒に考えることが大事です。男性の場合、20人に1人の割合で色弱者は存在しているのだから、デザインをする際に一緒に仕事をしたら良いと思います」と伊賀副理事長。どういう色が判別しにくく、どういう色が分かりやすいかを知っている人がそばにいれば、何より心強いものだろう。

さらなる認知のための活動と見えてきた課題

CUDOでは、この10年間くらいで必要なものはそろえた。それは理論構築であり、道具、仕組みなどカラーユニバーサルデザインを世の中の当たり前にするためのものである。どう見えているのかが分かるツールやシミュレーターをつくる時に協力したり、どんな色を選べば良いのかというノウハウの公開。さらに、造ったものが効果的であるかどうかの検証を実施している。

広がりにまだハードルが残っている課題があるが、来年以降、より広く知ってもらうための活動をさらに進めいくという。特に、経済原理や行動に結びついていない公共のものでの普及が必要とのことだ。

現在のルールでは、〝色が見えない〟人のために、形で分かるようにしていることが課題。例えば、トイレの男女分け表記はマークの形で分かるようにしており、色使いについてはそのままになっているという。色を変えない理由はコストがかかるため。サインの形を〝よく見れば〟分かるではなく、色で見る〝直観力〟を考えて欲しいのが伊賀副理事長の願い。

商品についても、その発注者や元請けがカラーユニバーサルデザインをしっかり意識して指示を出して欲しいという。また、配慮されていない商品でも、それを隠すのではなく、はっきり表記して欲しいのこと。事実、ある文具メーカーでは一時期、カラーユニバーサルデザインに配慮していない商品に×(バツ)印を表示。あえて配慮していないことをオープンにし、×印付き商品を早急に無くしていくことを目標にして、カラーユニバーサルデザイン配慮をスピード感を持って進めたそうだ。

CUDOは、カラーユニバーサルデザインの知識を普及させるための本を刊行しているが、最新版は今夏刊行の「色弱の子どもがわかる本 コミックQ&A」。家庭・保育園・学校でできるサポート術をマンガ形式で分かりやすく紹介したものだ。この中で興味深かったのは、サルを用いた最新の研究で、色弱のサルは明るさや形状の違いに敏感で、薄暗いで昆虫を発見するといった行為は、色弱のサルの方が得意であることが分かったこと。色弱だからといって色を見分ける能力が劣っているわけではないという。

また、学校の中で色の表記が色弱者には分かりにくい場所があるものの、大がかりな工事は困難という場合。本の中ではトイレの空き室表示を自動車補修用ペンで塗ることで簡単に区分けを施したが、壁の色彩などをカラーユニバーサルデザインに配慮したものにする際は、色弱者と一緒にDIYで塗装ができたら、配慮とともに色を塗る楽しさも味わえるかと思う。