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復刻、変化…色が魅せる世界

歴史の節目に合わせ、色の魅力を表現する事例が見られる。東北・上越新幹線では開業40周年に併せて、開業当時の車両カラーを復刻。懐かしさと新鮮さを醸し出した。広島県の福山城は築城400年と歴史の重みを塗替えで美しく甦らせた。また、エイジング塗装を取り入れて古き良さを伝える二面性も見せる。一方、自動車の世界では車体色を変えられるという最新テクノロジーを公開。塗装の脅威になるのだろうか・・・。(『塗料報知』7月27日付(4363号)掲載

東北・上越新幹線:開業当時の色を復刻

2022年は、東北・上越新幹線が開業して40周年となる。さらに、日本に鉄道が開業して150年という節目の年だ。これを記念して、JR東日本は「懐かしの200系カラー新幹線」を運行している。

開業当時の塗色となったE2系(提供:JR東日本)

 

200系は、東北・上越新幹線の開業と併せて登場した車両。白にクリーム色の車体に、窓周りや裾部分にグリーンを配したカラーをまとっていた。

200系車両(同)


今回、復刻カラー塗装車両となったのは、現在主力として活躍しているE2系である。現在、200系は在籍していないため、同系の後継として誕生し、同系フォルムをイメージしやすい形状であることから、E2系が選ばれた。しかし、両系では形状やサイズが若干異なるため、違和感のないデザインにすることに留意した。車体色だけでなく、パンタグラフ色や号車標記など、細かい点にもこだわったという。車体だけでなく、停車駅ごとにその地域を代表する民謡などチャイムにした「ふるさとチャイム」も復活。東北・上越新幹線開業当時を彷彿とさせる工夫が随所に凝らされている。

年配層にとって懐かしさを覚えるが、登場当時を知らない若年層には新鮮さを与えているこの復刻カラー新幹線。乗車の楽しみがひとつ増えた。

福山城:エイジング塗装で歴史を再現

広島県福山市のシンボルである「福山城」は、今年築城400年を迎える。福山城は1622年に築城。1945年、福山大空襲によって焼失したが、1966年にほとんどが寄付により再建された。再建時は、外壁はコンクリート下地に、モルタルコテ押えのうえ、ビニルペイントが施されたという。

改修でよみがえった福山城天守(提供:福山市)


さらに時を経て、築城400年記念事業の一環として改修工事が行われた。改修では、史跡などの本質的価値の理解促進や保存・活用の推進のため、歴史資料に基づいて幕末から廃城までの姿に復元的整備をすることを目指した。特に、鉄エイジング塗装では特殊ファンデーションローラー塗装工法を採用。鉄が長い時間を経ることで形成される錆や風食によって劣化した鮫肌状の凹凸等を塗装により、求める鉄板の質感を表現できることから採用を決めた。

また、鉄板の上に再現した鋲頭にも塗装できることや窓枠・竪格子にも同様の塗装ができることも鉄板張り北面の一体的な復元的整備に適うものであったことから採用の大きな理由となった。今後のメンテナンスについても考慮し、外壁劣化改修を行った。消石灰系仕上げ塗材で漆喰調に仕上げ、最後に無機質系建材表層強化剤を使用。表層を強化するとともに、カビや汚れの付着を防止する工法を採用している。

福山城は、築城400年記念日である8月28日に博物館としてリニューアルオープンする予定だ。細部までこだわった外観はもちろん、内部の展示もデジタル技術を活用し、福山城と福山藩の歴史を学び体験できるものに生まれ変わっている。「夜には世界的照明デザイナーの石井幹子氏監修による福山城全体のライトアップも行われる。是非、職人の皆様にも足を運んでいただきたい」と担当者は話す。

BMW:コンセプトカーから見る 色材テクノロジー革命

外装色をドライバーが変更できる(提供:BMW)

 

BMWが今年発表したコンセプトカーに「The BMW iX Flow featuring E Ink.」がある。Eインクを搭載したエクステリアは、ドライバーの指示によりボタンひとつで外装色を変えることができる。あくまでもコンセプトカーであり、BMWは将来のテクノロジーの展望を提供したに過ぎないが、色材の技術革新を感じられる事例である。

同車に搭載しているEインクを展開するのが台湾のE Inkホールディングス。前身は、液晶のパネルメーカーであり、中小サイズのパネルを生産していた。転機となったのが2009年。マサチューセッツ工科大学メディアラボ(MIT Media Lab)が開発したEインク技術と電子ペーパーの開発および量産を行っているアメリカのE Ink社を買収したことだ。今ではパネル生産は撤退し、電子ペーパーの研究開発と製造に注力している。Eインクは電子ペーパー向けに開発された製品で、液晶ディスプレイとの違いは、視覚上伝統的な紙媒体のように目に優しく、低消費電力という特長がある。

そこに大胆な応用例を示したのが、前述のBMWである。車体色が変わるメカニズムを説明すると、Eインクの構造は数百万個ものマイクロカプセルからなり、内包するマイナスに帯電した白色顔料と、プラスに帯電した黒色顔料という2種類の電気泳動式粒子が含まれる。それぞれ透明な液体の上下に浮かんでおり、プラスとマイナスが反対の電極へ吸着する原理を利用し、そのエリアに対応した黒色または白色の粒子がマイクロカプセルの上部に移動し、色の変化が起きる。なお、インク自体は印刷で使われるものと同様である。

その日のドライバーの気分で色を変えられるだけではなく、熱エネルギーの吸収を考慮すれば、夏は白色、冬は黒色というように、必要な冷暖房のエネルギー消費も抑えられる。過度にダッシュボードが熱くならないという効果もある。

カラートラベルなど近年角度によって色変化を楽しむ色材が再注目されている。Eインクは多色も可能で今後の開発と応用事例に目が離せない。