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〈2〉コラム:建築塗装 教育できない2つの理由

1 .2 なぜ塗装屋には一般社会の社員教育がマッチしないのか?

塗装店向け採用・教育の指南コラム〈2〉

著者プロフィール:

日本建築塗装職人の会 会長 青木忠史
「日本を代表とする建築塗装店向けに展開する経営コンサルタント。
29歳の時、家業の建築塗装店を継ぎ、6,000万円超の借金をわずか3年で完済。そこから生まれた「地域密着型経営」、「職人直営専門店」の塗装店戦略を体系化し、コンサルタント業へ。これまで7,000件以上の塗装店経営者の経営相談を受け、700社以上の塗装店経営者へ直接経営指導してきた。

〈コラムの概要:著者インタビュー〉

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前回のコラムでは、仕事ができるようになった社員職人は退社をしやすい、独立をしてしまいやすいという話をしました。

そこで、多くの代表親方が考えることは、
「自分のマネジメントが間違っているため、マネジメントを覚えなければならないのではないか・・・」
と思って自ら外部の研修などに参加したり、社員を外部研修に参加させたりすることです。

その結果、退社する社員・独立する社員が減ればよいのですが、退社する社員は一向に減らないというケースはとても多くあります。

また一方では、いろいろな情報を入手して「就業規則」「賃金テーブル」「評価制度」などが自社には無いからかもしれない・・・と思い、それらを導入してみようと試みたりもするものです。

ところが、「就業規則」や「賃金テーブル」「評価制度」などは作成をするにあたっても時間もお金もかかり、その上、既存社員は反発をしたりして受け入れてもらえないことも多く、結局、前進が出来なかったりします。

そのほか、他社は福利厚生も充実しているから社員がやる気を持って働いてくれないのではないかと考え、福利厚生に力を入れたりもします。ただし、一向に退職者は減らず、ここにも答えが無いのです。

このような時間が5年10年と経過していくうちに、

「結局、自分には経営の能力が足りなかったのだ‥」

「自分には運がついていなかったのだ‥」

「伸びていく会社は、自分とは実力が全く違うのだ‥」

などという、”検討違いの答え”で自分自身を納得させてしまうのです。

日本建築塗装職人の会の17年間の歴史の中で、このような状況は、年商1億円規模の塗装屋さんから年商10億円規模の塗装屋さんにまで見られました。

しかし、答えは”明確に”あるのです。

なぜ、塗装屋には一般社会の社員教育がマッチしないのか?

それは、「社員教育」や各種制度を整備する前に以下の2つの問題があるからです。

 ①そもそも「正しい人材の選定」がなされていないこと
 ②業務の基本体系をまとめた「業務マニュアル」がないこと

つまり、「外部研修」への参加や、「就業規則」「賃金テーブル」「評価制度」等の各種制度の策定、福利厚生の充実の前に、自社で塗装職人を雇用する全ての塗装屋さんがやっておかなければならないことは、自社に相応しい人材の選定~採用、そして、その後、自社の考え方に沿って仕事を教育できる業務マニュアルの整備であるということなのです。

それぞれを順番に説明致します。

1点目の「正しい人材の選定がなされていないこと」とは、まず塗装経験者を採用するのであれば、自社の「理念・ビジョン・価値観」にマッチしている人材を採用しているかという点を見る必要があります。

1.1 仕事ができるようになった社員職人が独立をしてしまう6つの理由参照)

なぜなら、そもそも論ですが「利益共同体」のような稼ぎたい人が集まっている会社よりも、「理念共同体」のような心を1つにした会社のほうが、結果的に長く続いており、特に先行きが厳しいと言われている今の時代では、その傾向が特に顕著に現れてきているからです。
(利益共同体的な塗装屋は倒産・廃業傾向にあることに対し、理念共同体的な塗装屋はコロナ禍でも業績を上げている傾向がある。2022年 日本建築塗装職人の会調べ)

その上で、塗装未経験者を採用するのであれば、「理念・ビジョン・価値観」だけでは物足りず、さらに「業務特性」が合っているかも見て採用をしていくことが大切です。

なぜなら、未経験者は「塗装職」の適正がなければ、また、別の職業に転職をしてしまう可能性もあるからです。

なので、まずは「人材の選定」が重要であると言えるのです。

そして、2点目の「業務の基本体系をまとめたマニュアルがないこと」に対しては、そもそも「基礎」がないのに家は建たないように、社内の業務マニュアルがベースにある上で、さらなる研修などを施すことが経営の最適解とも言えるでしょう。

また、社内の業務マニュアルがベースにある上で、「就業規則」や「賃金テーブル」や「評価制度」を機能させていくのだと考えるべきでしょう。しかし、その「業務マニュアル」すらも、事業戦略が定まっておらず、その都度発注される大小さまざまな目先の仕事をとにかく毎日こなしているような状態では、なかなか作成できないことも確かです。

すると、社員教育や各種制度を整えるよりも、「業務マニュアル」を先に整備することが優先ですが、業務マニュアルよりも優先して整備をしなければいけないのは、事業戦略と言えるのですね。

ここで言う事業戦略とは、強い事業に絞り込んで伸ばしていく、「事業ドメインの設定」からを指しています。


まとめますと、塗装屋さんに一般社会の社員教育ノウハウ等が通用しにくい理由は、事業戦略が定まっていないため「業務マニュアル」が作成できない点があること。そして、その上で「正しい人材の選定」が出来ていないため、「社員教育」以前の問題があることです。

逆に言うと、事業戦略が定まり「業務マニュアル」を作成し、正しい人材の選定が出来るようになった後には、「就業規則」「賃金テーブル」「評価制度」なども生かすことができる企業へと進化していくということでもあるのです。

まとめ

まとめますと、塗装屋さんに一般社会の社員教育ノウハウ等が通用しにくい理由は、事業戦略が定まっていないため「業務マニュアル」が作成できない点があること。そして、その上で「正しい人材の選定」が出来ていないため、「社員教育」以前の問題があることです。

逆に言うと、事業戦略が定まり「業務マニュアル」を作成し、正しい人材の選定が出来るようになった後には、「就業規則」「賃金テーブル」「評価制度」なども活かすことができる企業へと進化していくということでもあるのです。

ではまた次回!